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若者の自殺を防ぐために
こんにちは、GIVING TREE CLINICの山口です。
今回のコラムでは、先日刊行された雑誌「精神医学」に寄稿した私の論文について紹介したいと思います。
ちょっと学術的でナイーブな話題になりますが、ご興味のある方は本誌を読んでみてください。
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/41512
本誌では、「若者の自殺対策」という特集が組まれており、さまざまな立場から若者の自殺対策が論じられています。
そのなかで、私に与えられたテーマは、統合失調症の自殺対策でした。
統合失調症という疾患は、思春期から青年期に発症し、幻聴や被害関係妄想を特徴とする疾患で、発症早期や発症リスクの高い状態(at-risk mental state : ARMS)では、抑うつ気分、意欲低下、不安、焦燥感、不眠、自傷行為といった多彩な精神症状を認めます。
また、統合失調症はうつ病と同様に自殺の危険性が高い疾患で、特に発症早期にその危険性は高まることが知られています。
そのため、発症早期やARMSでは、自殺の危険性も含めて精神症状を丁寧に診察し、時には入院治療を検討しなくてはならない場合もあります。
ところが、発症早期やARMSでは、自身が体験している精神症状が病気の症状であると認識することや、周囲の人に援助希求することが難しく、周囲の人も「疲れているだけ」「怠けているだけ」「反抗期」などと誤って解釈してしまい、なかなか適切な医療につながらないことが指摘されています。
そのため、統合失調症の発症早期やARMSの自殺を防ぐためには、「統合失調症」という診断にとらわれることなく、広く「メンタルヘルスの不調」ととらえてより早期から適切に介入することがと求められます。
彼らの自殺を防ぐためには、時宜をみた適切な薬物療法や心理社会的療法といった専門的な治療が必要なことは言うまでもありませんが、地域全体が彼らの自殺予防に取り組むことがとても重要だと考えています。
一般的に、地域の健康相談の代表的な窓口は保健センターになりますが、残念ながら特にメンタルヘルスの問題においては、保健センターと医療機関との連携の難しさは以前より課題となっています。
近年、WHOや先進的な諸外国においては、地域における「ワンストップ・ケア(One-Stop/Integrated Care)」と呼ばれる若者を対象としたメンタルヘルスの包括的支援サービスの構築が提唱されており、日本でも東邦大学が実践しているSODA( https://www.soda-ymhc.com )の取り組みが挙げられます。
メンタルヘルスの不調を抱える若者の自殺を防ぐためには、私たちのような医療機関だけでなく、SODAのような地域に密着した若者向けの包括的支援サービスの拡充が必要であると考えています。
GIVING TREE CLINICも、医療機関として若者の自殺予防の一翼を担っており、今後も地域の保健センターや子ども家庭支援センター、学校、各科医療機関などと連携を深めながら、若者のメンタルうヘルス支援に尽力していきます。
もし、メンタルヘルスの不調を感じた時には、どんなことでも気軽にご相談いただけますと幸いです。
山口 大樹